以前読んで、ハマってしまったダンテの『神曲』。

神曲【完全版】
ダンテ
河出書房新社
2010-08-26






14世紀イタリアはフィレンツェの詩人ダンテ(本業は政治家、貴族)が、ローマ時代の詩人ウェルギリウスに導かれて地獄・煉獄・天国をめぐるという物語(詩)です。

名作、堅苦しい、捧げもつような本…そんな先入観で読み始めましたが、とんでもない!


ダンテの強烈なナルシシズムが最高でした。

自分を歴史上六番目の詩人という設定にしたり、嫌いな聖職者・政治家・仇をバンバン地獄に落としたり。

かと思うとイスラム圏と戦った自分の先祖は"殉教者"として天国の良いところにいることにしていたり。
(大問題だけど、侵略されるのは危機的な状況だったと思う…)


これは嫌だと思うのではなく、面白いな~と楽しんで読むべし!
私は文学的価値云々より、それが大好きでした。こういう人間くさいの大好き!


動物のたとえを使った、地獄の生き生きした描写もぐいぐい引き込まれます。



「きっと訳が魅力的なのだろうな…」
というわけで、この度訳者による『神曲』解説本を読みました。 


ダンテ『神曲』講義
平川 祐弘
河出書房新社
2010-08-26


上下段、500頁の大著です。

『神曲』やダンテ、当時のイタリアにとどまらず、翻訳はどうあるべきか、複数の文化・言語を理解することの大切さ、『神曲』と日本の謡曲(能楽の謡部分)との比較など、幅広く、濃~い内容でした。


謡曲も『神曲』と死者(亡霊)の語りなしには成り立ちません。仏教、キリスト教と背景は違いながらも、

・死者が語りたいと願うこと
・救いの背景にあるのは、意外と素朴な信仰であること(念仏信仰、マリア信仰)
 
と共通点を挙げていらっしゃるのも面白かったです。
謡曲そのものへの視点も興味深かったですが、それは是非本文で。


『神曲』が平川先生の名訳も手伝って読みやすいのも、背景の思考回路がシンプルだからかなと思ったりして…。 
『神曲』を人間くさい文学として紹介してくださった平川先生に改めて感謝の気持ちを抱いたのでした。
 

平川先生(著者にして、『神曲』訳者)がイタリアに留学されていたときの話、教員側で学生運動の最中、東大の外で自主ゼミ(学生側による)をなさっていたときのお話も交えられていて、楽しく読みました。  


翻訳の比較として、原文(読み方不明なため、諦めました…)に英訳にバンバン引用されるので、おののきつつも、
(平川先生の翻訳論、とても熱いです!)
語り口そのものは簡潔。内容もあちこち行きながら、脱線なのうでさにあらず…。


内容は勿論のこと、いわゆる戦前教育を受けた知識人たる平川先生の「知の大きさ」に、すっかり魅了されました。

これが読売文化センターでの社会人向け講義だということに驚きます。受講者の知的レベルの高さ…。

こういう方を支えるためには、一般人の知性も存外重要かもしれないなあなんて思ったりね。かくいう私は、今後も翻訳者の労力にぶら下がって生きていこうと思っている怠け者ですが…。


ふだんは解説よりも、作品(翻訳だけど)を一冊でも多く当たるつもりでいますが、平川先生の本な今後も何冊か読むことになりそうです。
いつか講演、聞けたらいいな。